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「ん?なんだこいつ」 たった今倒したグリズリーの死体の横で、ちょろちょろしているリスを見つけたロードは声を上げていた。よく見ると、そのリスは小さな手に紙切れのようなものを持っている。 「あ!かわいい!」 いつの間に避難場所の木から降りて来たのか、レッドはリスを見つけると抱き上げた。そして、手にしている紙を広げる。そこには『クリスが待ってる』と書かれてあった。 「ロード!これ、クリスからだよ!」 「はぁ?!」 頓狂な声を上げるロードに驚いたのか、リスはレッドの手からぴょんと飛び降りると、二人の人間を交互に見つめる。 「・・・なんだよ。こいつ、俺らを誘ってるのか?」 「ついて来いってことじゃないかな?」 「なんでクリスがリスを操れるんだよ?」 「ロード、なんかそれって早口言葉みたいだね」 人間二人の掛け合いをリスは黙って聞いている。小さな手で顔を洗うと、トトトと森の奥へと走り、また止まる。 「なーんか怪しいけど・・・どうするの?ロード」 「・・・ま、行ってみっか。ダメもとってことで。いたらラッキーだもんな」 剣を鞘に収め、ロードとレッドの二人は小さなリスの後をついていった。 そして、ほどなく。木々の間で談笑しているクリスと見知らぬ男を発見したのだった。 「クリスぅ〜!」 聞き知った少年の声に、クリスは振り向き喜びの笑みを広げた。 「レッド!良かった!ロードも」 ロードとレッドの二人に駆け寄ると、すぐにレッドがクリスに抱きついた。 「もぉ〜!心配したんだからね!」 「ごめんごめん」 少年の赤い頭を撫でながら、目の前のロードを見ると、険しそうな顔でクリスを見ていた。そして「あいつは誰だ?」と声に出さずに口をパクパクさせて訊く。 クリスはレッドを離すとヴァンに向き直った。 「紹介するよ。この人はヴァン=キースさん。俺が倒したアース・ワームの下敷きになってたんだ。ヴァン、こっちがロード=リッツァーで、この子がアルフレッド=フォックス」 「・・・どーも。クリスがお世話になりまして」 「いえいえ。こちらこそ。助けていただいて感謝しております」 握手をするロードとヴァン。何故か火花が散るようなにらみ合いがしばらく続く。先に口を開いたのはヴァンのほうだった。 「さてと。僕はそろそろ行くよ。夜までには<アイリス>に着いときたいしね」 足元のリスを懐に入れるヴァンにロードは「ちょっといいか」と待ったをかける。 「訊いてもいいか?なんで<アイリス>なんてトコに行くんだ?」 「商売上、それは秘密なんだけど・・・それじゃあダメかい?」 柔らかな笑顔をロードにも向け、ヴァンは答えた。ロードは納得しがたい顔で「じゃあ・・」と付け加える。 「あんたのその剣、偽者なワケ無ぇだろ?さっきクリスがアース・ワームの下敷きにしたって言ってたけど・・・そいつで切って出てくりゃ良かったのに。どうしてクリスの助けが必要だったんだよ?」 ヴァンの眉が一瞬ビクンと跳ね上がった。自分の左の腰に差している長剣を見下ろす。ロードのものとはタイプが違うが、これもかなり改良されていた。 ヴァンは小さくため息をつくと、ロードを真っ直ぐに見つめた。 「アース・ワームを倒した人物を見てみたかった・・・じゃ理由にならないかな?」 「あんまり上手いとは言えねぇな」 口の端を上げるロード。ヴァンは「しょうがないな」と苦笑交じりに独り言のようにつぶやいた。 「でも、見てみたかったのは本当だよ。<魔法>を使ったでしょ?」 今度はロードとクリスが咄嗟に身構えた。クリスはヴァンを訝しげに見つめる。 「ヴァン・・・・一体何者なんだ?」 「何者ってほどの者じゃないんだけどね」 にっこりとクリスに笑いかけ、クリスの手を取る。何をするのか分からないクリスはじっとヴァンの行動を見守っていた。 「見境無しに<魔法>をあまり使わないように。この綺麗な顔に傷が付きますよ」 言うとクリスの頬に手を伸ばし、クリスを上に向けさせたかと思うと、ヴァンは顔を近づけていき―― 「ちょっと待て」 ロードはクリスの口を手で覆うと、ヴァンからクリスを引き剥がす。キッと彼を睨みつけ、 「あんた・・・男に興味あるのかよ?そんなら誰か他のヤツにやってくれるか?」 と、凄みのある声で吐き捨てるように言った。 ヴァンはクックと声に出して笑うと、無精ひげを一撫で。 「分かってるよ。そんなにムキにならないでもいいのに・・」 クルリと踵を返し、ヴァンはロードたちに背中を向ける。そのままで彼は言った。 「ロード君・・・って言ったっけ?そんなに大事な彼女なら絶対手放すんじゃないよ?どんなことがあっても――」 「えっ・・・」 「か・・彼女・・?」 驚き、ロードとクリスは一瞬顔を見合わせた。そして、次の瞬間には目の前からヴァンの姿は掻き消えていた。 「何・・・なんだよ・・・あいつ・・・」 「・・・バレてたみたい」 つぶやく二人。レッドは何も無くなった空間をぽかんと見ている。ロードは腕組みをした。 「ヴァンか・・・。俺はてっきり<キルズ国>のモンかと思ってたんだけど・・・違うっぽいな」 「<セージ城>から来たって言ってたよ。ということは・・・ハーグ王の?」 「鎧に紋章は無かったな。ま、ハーグが絡んでるってのも一理あるかもな。あいつらしいぜ」 その言葉に、反射的にクリスはロードの顔をまじまじと見た。大きな青い瞳で見つめられ、「な・・なんだよ」とやや上ずった声がロードの口から漏れる。 クリスは興奮気味にロードに問うた。 「ロードとハーグ王ってどういう関係なんだ?!王のことを『あいつ』呼ばわりして・・・」 「ああ。そんなこと?」 ロードは口の端を上げて見せると、意地の悪い笑みを広げた。 「んじゃあ、代わりにキスしてくれたら教えてやるよ」 「!!」 いきなりな展開にクリスは頭の中が真っ白になった。目の前のロードはと言うと、ニヤニヤとクリスを見下ろしている。面白半分だということはクリスにも分かった。 「・・・もういいっ!」 ロードに背を向けるクリス。 「な〜んだ。クリス、キスしないんだ。つまんないのぉ〜」 何故かレッドがふてくされたように、近くにあった切り株に腰を下ろした。ロードは「気になら無ぇんなら別にいいけどぉ〜」とわざと声に出して言っている。 「ヴァンとはキスしようとしたくせに、ロードとはしようとも思わないんだね」 レッドの一言にクリスが慌てた。 「ち・・違うよ!あれはヴァンが勝手に・・!!」 「でも拒否らなかっただろ?お前、あーゆーのが好きか?」 「いきなりのことで、対応できなかったんだ!好みとか・・・・そりゃ少しはかっこいいなって・・・」 ヒクリとロードの肩が上がった。ニヤニヤ笑いはいつの間にか消え、じっとクリスを睨むように見つめている。レッドがロードの変化に気付き、クリスの下へ駆け寄ると彼のマントを引っ張った。 「ねぇ・・ロード、すっごくこっち見てるよ?」 「・・いいよ。放っておこ」 「で・・・でも・・・」 「ヴァンは誰かさんと違って言葉遣いも紳士だったな〜」 レッドと声を小さくして話していたクリスは最後だけ大声で言った。もちろん、それはロードの耳にも入り―― 「んじゃあ、何か?!俺が野蛮だとでも言うのかよっ!」 「そうじゃない!女の子と見れば見境無く口説くし!夜な夜な変なトコに行くし!」 「この頃は行ってねぇだろーが!」 「あれば行くんでしょ?!あればっ!」 いつの間にかクリスは女言葉でしゃべっていた。それに気付かないのはロードとクリスの当人のみ。レッドは「また始まっちゃった」と渋い顔で切り株に座りなおす。 「んじゃあ、あいつみたいな紳士と旅でもなんでもやりゃ良かったのに!」 「何でもって何よっ!それはロードのほうでしょ?!」 「何がだよ」 「何がって・・・・その・・・」 下を向き、クリスはもごもごと言いよどんでいる。ロードはそれでピンと来たのか、クリスの困った顔をおもしろそうに見下ろしていた。 「で?何が言いたいのかな?クリスちゃんは」 「べ・・・別に!もう良いよっ!」 顔をロードから背けるがクリスは耳まで真っ赤になっている。ロードはクックと喉の奥で笑った。 「俺に『何でも』して欲しいんならいつでもしてやるぜ?」 「だっ・・・誰がして欲しいもんかっ!!」 男言葉に戻ったクリスはロードに背を向けたままで叫ぶ。ロードはそんなクリスの態度がおもしろくて仕方がなかった。 「クリスちゃん。どうでも良いけど、お顔が真っ赤ですよ〜?」 「う・・うるさいなっ!ほっといてくれよ!」 クリスの顔を見ようと回り込むロードから、必死に顔を背けるクリス。恋人同士のような二人のじゃれ合いに、レッドは流石にうんざりしてきた。切り株の上で大きく伸びをする。 「ねぇ、どうでもいいけど先に進もうよぉ〜。今晩、ここで野宿するつもり?おいら、アース・ワームの死骸のそばで寝るなんてイヤだからね!」 少年の声に、二人の世界にどっぷりと浸っていたロードとクリスは我に返った。お互い顔を見合わせ、気まずそうに視線を逸らす。 ロードは小さく咳払いをすると、 「んじゃ、そろそろ行きますか!ヴァンのことや俺とハーグのことも今はお預けってことで」 「ヴァンのことはともかく・・・ロード言わないつもり?」 「ま、俺が王子様じゃねぇってことは言えるけどな」 言うとニッと笑って見せる。レッドは「当たり前だい」と言うと、切り株からぴょんと飛び降りた。 「こんな王子様がいたら、国がつぶれてるよ」 「・・全くだ。町中の女の子を妾(めかけ)にしそうな男に国は任せられないな」 「お前ら・・・俺をどんな目で見てんだ・・・・?」 口々に言いたい放題言うレッドとクリスをジト目で見ながら、ロードたちは陽の傾いてきた森の中をゆっくりと進んでいった。 |
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